水島工業地帯の絶景夕焼けを撮る。

OM1B3169, ,Mizushima Complex,Sunset,水島コンビナート
呼松港からの水島コンビナートの夕焼け。

2023年1月21日17:55岡山県倉敷市呼松漁港岸から撮影。

漁村集落の面影が残る呼松の町並み

旧呼松郵便局。
旧呼松郵便局。

水島工業地帯で素晴らしい夕焼けに遭遇しました。実はこの日、まず最初に訪れたのは倉敷市呼松(よびまつ)の街だったのです。倉敷中心部で暮らす弟から、その日はじめて「呼松だと、漁村集落の面影が、まだ残っているかもしれないよ。」と聞かされ、車で送れる距離にあるというので、いきなり行ってみることにしたのです。

呼松は古い町並みを残す静かなたたずまいでした。地元の皆さんの邪魔にならぬよう、通りや郵便局などを撮っているうちに、すぐ太陽が西に傾いてきました。すでに呼松に着いたのが16時をまわっていたのです。もっと早く来るべきでした。西側の工業地帯の煙突の煙が逆光で照らされています。すぐ暗くなってくるでしょう。このあと、町並みはもう撮れそうにありません。「どうしよう?」と考え始めた時に、通りがかった地元の方にお話を伺うと、少し北上した「呼松漁港」あたりからなら、夕焼けの眺めが見えるかも?というではありませんか!

呼松漁港に到着

福田東公園は西側には抜けられず、北側は川。
公園は西側には出られず、北側は川。

さっそく、「呼松漁港」を目指してみることにしました。ところが、ここでちょっと判断を間違えてしまいました。あまり地図を確認せずに、勘で南側にある「福田東公園」を通り抜けて漁港へ向かおうとしたのです。ところが、この公園と漁港は川で遮られていました。仕方なく大回りで西へ迂回しなければなりませんでした。ここで十数分以上、時間をロスしてしまいました。私はiPhoneの中に「Google Maps」やアップルの「マップ」が手元にあるくせに、いまだにそれを無視して勘で歩いてしまう悪いクセがあります。確かに、勘で歩くことによって、思いがけない風景やシチュエーションに出会えることも多々あるのですが…。でもここでは時間を最優先すべきでした…。

うっすらと夕焼けがはじまりました。なんとか「呼松漁港」に着きました。ゲートが開いているのと「関係者以外立ち入り禁止」の看板が見あたらないことを確認し、敷地に入りました。「さて、ベストアングルはどこだろう?」初めて訪れた場所ではありますが、こんな時にもiPhoneのマップが本当に大活躍します。地形から判断して、運河沿いに北上しながら、撮ってゆくことに決めました。

冬の夕焼けは十数分のうちに激しく変化

呼松漁港の堤防と水島工業地帯。
呼松漁港の堤防と水島工業地帯。

漁港に入った17時半あたりの段階では、夕焼けはまだほんのうっすらでした。夕焼けの広がりや強さは、晴れているから〜曇っているから〜だけでは、何とも予測できず、他にも気温や湿度、その他の気象条件が複雑にからんできます。

この日は、17:45あたりから、一気にパワーアップして夕焼けが広がりはじめました。オレンジとブルーのグラデーションの鮮やかさがなんとも強烈です。それがまた海に反射して、効果が倍増しています。加えて、鉄塔や煙突、電線や漁船が織りなす影絵のようなシルエット。ステンドガラスのようです。黒い輪郭はオレンジを背景にすると、これほどまでに映えてしまうものなのでしょうか。ここまででもう「おなかいっぱい」の構成です。工場の灯もちらほら見えてはいますが、ほんのちょっぴりふりかけただけの粉チーズみたいな存在でした。

ウルトラセブンの夕焼けを連想

ところで皆さんは「ウルトラセブン」の第8話「狙われた街」をご存知でしょうか。エンディングで「メトロン星人」という紅いバナナみたいな宇宙人が、夕焼けの街をバックにセブンと戦います。この時の街も同じような真っ赤な夕焼けに染まっているのです。シュールな展開が、これまた夕焼けに実に似合っているのですが、そのシーンをふと思い出してしまいました。

北斎や広重の浮世絵も思い出す

浮世絵みたいな夕焼けの色。
浮世絵みたいな夕焼けの色。

そのまま空と水面の色を見つめていると、「セブンもそうだったけど、葛飾北斎や安藤広重の浮世絵で、こんなのがあったような…。」と、思い出しました。「富嶽三十六景」とか「東海道五十三次」の中にあったんじゃないか?そうだ、きっとあったに違いない。でも、「どんな景色で?」「どんな構図だったか?」は、それ以上具体的には浮かんできませんでした。ただ、そこまで思い出せただけでも、とても嬉しかったのです。北斎や広重もきっとこんな色の夕焼けを見たことがあるんだ、という確信にも似た思いを得られたからです。

輝く「面」に重なる黒い「線」の存在

さて、このカットの構成の中でもうひとつ面白いと思うのは、「線」の存在です。オレンジとブルー、中央の大地の影は「面」として一気に塗りつぶされているのですが、残りの「鉄塔」や「煙突」、「電線」といったものは、クッキリした「線」でシュッっと構成されています。撮影時、私は電線の存在を本当は邪魔に感じていました。鉄塔群が垂直に並ぶ印象を強調したかったからです。ところがあとであらためて見ると、この横に水平に走る電線の存在がむしろ効果的でよかったのかも?と感じています。

若いユーザーの皆さん、どんどんチャレンジを!

私は学生時代に風景を水彩画や油絵で描いた事はありますが(正確には、高校時代から美大進学コースだったので、描かされたという方が正しいかも?)、さすがに浮世絵はいまだに全くありません。版木を使って刷ったりするのも未体験です。色分けした版の木版画で、グラデーションを表現していく工程をテレビで観たことはあるのですが…。もし、この光景を浮世絵として版木で刷ったら、どんなふうになるんでしょう?

私は浮世絵に憧れたことはあったのですが、これまで全く触れようとしなかったことを、この歳になって大いに悔やんでいます。若いユーザーの皆さんには、そういうことが無いよう、とにかく「興味があることは、何でも体験してみる」ことを強くすすめます。「ちょっと興味があるけど、そのうち…ね。」と後回しにしてしまうと、気付いた時には「死の床」かもしれませんよ。失敗したって、身に付かなくたって、いいじゃありませんか。「向いてなかった」「意外とつまらなかった」でもいいのです。それもまた「収穫」なのです。人生でいちばんいけないのは「挑戦しないこと」なのですから。